Mayerhofen

夏、7月から8月にかけてはドイツでも夏の休暇シーズン最盛期です。

私の住む南ドイツ、バイエルン州は、ドイツ国内からの旅行者も多い人気のホリデー地域。
アウトバーンなどでも、ドイツ各地方からの自動車やキャンピングトレーラーを始め、

欧州各国のナンバープレートを見かけることが多いです。

そんな8月のある日、家族でオーストリア国境を越えて、

ヨーロッパアルプスはチロルの山岳地帯に行ってきました。
目的地は、ミュンヘンから車で2時間ほどのマイヤーホーフェンという山間の町。
私としては、山の清浄な空気に触れて、のんびりとおいしいものを食べて、

ちょっとした山歩きなどを楽しめれば、という気持ちでしたが、

なんとこのマイヤーホーフェンにて、人生初のロッククライミング

挑戦することになろうとは夢にも思っていませんでした。

ヴィア・フェラータ(via ferrata)とは

今回体験したロッククライミングは、正確にはヴィア・フェラータと呼ばれるもの。
ドイツではクレッターシュタイク(Klettersteig、

直訳: クライミングロード)と呼ばれています。

発祥の地はイタリアだそうでして、イタリア語で「鉄の道」を

意味するヴィア・フェラータは、その名の通り金属製のワイヤーロープやはしご、

木製の歩道や吊り橋のように、固定された設備などが前もって

整えられている登攀コースを指します。
登攀者本人は2つのカラビナが接続されたハーネスを装備し、

常にこのカラビナをワイヤーロープなどの固定設備につなげて

安全性を確保しながら登るので、経験の少ない登山者でも、

岩場や崖の上のコースを安全に通行し、頂上まで達することができるようにするものです。

ヴィア・フェラータの最低限装備は、ハーネスと

ヴィア・フェラータキット(上記カラビナ付きのロープと、リギングプレートと呼ばれる衝撃吸収部品からなる)、ヘルメットの3つ。

これらは自分で用意しなくても、現地で手ごろな値段で借りられることが多いようです。

実際、私の場合は、駐車場で15年間愛用した登山靴に履き替え、

3歩歩き出したところで、なんと左側の靴底(ソール)の部分が

突然ぱっかりとはずれてしまい、復旧不可。
慌てて先ほどまではいていたスニーカーに履き替えて、

なんとかそれで登ることにしたのでした。

また、登攀中は、常に金属のカラビナを開けたり閉めたり、

またそれをずらしながらワイヤーロープに常に触れている状態になりますので、

ぴったりした手袋があればなお良いですね。
自分で用意したほうが良いのは、運動しやすい服装と、

しっかりした登山靴。スニーカーでも大丈夫ですが、

底がしっかりとしたものが安心です。
これにフィンガーレス&パッド入りグローブと小型リュックサックがあれば、

より快適にヴィア・フェラータを楽しめるでしょう。

マイヤーホーフェンのヴィア・フェラータ

世界には無料のヴィア・フェラータが数多く存在し、

アルプスやドロミテ地方はその数が特に多いそうです。

今回私たちが登った、マイヤーホーフェンのヴィア・フェラータは、

身長120センチ以上の6歳から14歳の子供も、大人同伴で楽しむことができるコースでした。

子供コースとはいえ、ヴィア・フェラータ難度は一部B、

勇気とパワーと器用さが必要とされる、となっています。
スタートからゴールまでの高度差は約200メートル、

ワイヤーロープの全長は約400メートル、時間は1時間半から2時間のコースです。
場所は、マイヤーホーフェンの鉄道駅からもほど近く、

駐車場もすぐ近くにあり、登り口の手前で装備一式を貸してくれる受付があります。

レンタル料金は私たちの時は一人20ユーロほどでした。
手袋は基本セットに入っていないのですが、合ったほうがいいので、

これは5ユーロで買い取りでした。

さて、長女に「せっかくだから山登りにもチャレンジしましょう!」

と言われて、家族旅行のついでのハイキング、みたいな軽い気持ちで

のこのこついてきたのはいいものの、最初にコースのスタート地点に立った私は、

「Oh My God」と心の中で叫びました。
ほぼ絶壁に近い山肌を登って行くことがわかったからです。

登る前の心境としては、
「最後まで登れるかな?」
「途中でしんどくなったらどうしよう?」
「逆戻りもできないよね?」
「怖い・・・」
というものがまじりあっていました。

それでも、長女も次女もやる気満々だし、末っ子はちょっとビビッていましたが、

母までビビった様子を見せてはいけないと、

まずは練習用のワイヤーロープにカラビナを2、3度つけたりはずしたりして、

感覚をつかみます。

そうしていよいよ、ドキドキを隠して、57歳にして人生初のヴィア・フェラータのスタートです。

ルートのスタート地点に到着し、まずカラビナを2つワイヤーに留めて、

前後の人と一定の距離を取ります。
ボルトで止められているワイヤーの区間に、

二人以上の人が入らないようにするのが基本のようでした。
そして、ワイヤー沿いに登りながら、自分の動きに合わせて

カラビナをスライドさせていきます。
ワイヤーは一定間隔で山にボルト留めされているので、

ボルトのあるポイントに到達したら、ひとつめのカラビナを外し、

次の区間のワイヤーに留め、それからもうひとつのカラビナを外して留めます。
常に2本のカラビナのうち、1本は必ずワイヤーに留まっているように注意します。
ワイヤー沿いに墜落しても、ボルト部分で必ず止まるようになっているので、

墜落距離を短くするには、できるだけ前の位置にカラビナを留めておくのがベストだそうです。

さて、心の中の恐怖を押し殺しながら黙々と登って行く我々4人。

部分的には簡単に進んで行けるところも多いのですが、

地形によっては時々ワイヤーワークが不規則になっていて

カラビナがひっかかったり、足をかなり急な角度で持ち上げないといけなかったり、

「もうやめて帰りたい!」と思ったことも1度や2度ではありませんでした。
しかし、ヴィア・フェラータはスタートからゴールまでのルートが1種類しかなく、

ルート上で立ち往生しても、そこから脱出することはできないのです。
一部のヴィア・フェラータにはエスケープ用のルートが

紹介されているものもあるそうですが、その数は決して多くないようです。
ここマイヤーホーフェンのヴィア・フェラータも、一度登り始めたら、

最後まで登りきらないといけないのです。

最終手段として、逆戻りするという手もありますが、

一つしかないルートを次から次へと昇ってくる人がいる中を

逆行して山を下りるわけですから、迷惑千万この上ない行為になります。
下からくる何十人という人にいちいち、

「ごめんなさい」「すみません」「失礼します」と謝りながら逆行するよりも、

ここまで来たらもう登り切ってしまったほうがいっそ楽!

と自らを励まして、また再び登り続けたのでした。

ルートのほぼ中間に、大きめのプラットフォームがあり、

雄大な山の眺めを楽しみながら、ちょっとした休憩をとることができます。

ここからは、通常のハイキングコースにつながる非常口もあるので、

すでに疲労困憊していた私と12歳の末っ子は、ここでお姉ちゃんたちと別れて、

ハイキングコースから山の頂上にある山小屋風レストランへ向かうことにしました。
長女と次女の二人はるんるん気分で、無事にゴールまで完走し、

30分ほど遅れてレストランで合流し、緑豊かな景色を楽しみながら、

アプフェルショーレというリンゴジュースの炭酸水割でのどを潤しました。

全ルート完遂ことできませんでしたが、心の中の恐怖を克服して、

一歩コンフォートゾーンから抜け出すことができた一日として、

この夏の日を忘れないようにしたいと思いました。

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